黄大仙の blog

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中国で無差別殺人容疑者2人に死刑執行

中国は20日、昨年11月の無差別殺人の犯人2人の死刑を執行しました。珠海市で人をはねた車を運転していた樊維秋(62)と、江蘇省無錫市の専門学校でナイフで次々に人を殺傷した徐加金(21)です。

  ドイツ国営の国際放送事業体である徳国之声の記事より。

無差別殺傷事件の犯人に死刑執行

  昨年1111日夜、樊維秋は珠海スポーツセンター内で運動していた人々に車で突っ込み、35人が死亡、43人が重軽傷を負いました。この事件は、昨年中国で発生した一連の無差別襲撃事件の中で最も死者が多いものでした。

 

  中国の裁判所は判決で、離婚と財産分与の結果に不満を抱いていた范偉秋は、車を群衆に突っ込ませることで個人的な怒りを爆発させたとし、「犯行の動機は極めて卑劣であり、性質も非常に悪い」と述べました。 犯行から46日後、樊維秋は死刑判決を受けたのです。

jp.reuters.com

 

  珠海の自動車暴走無差別殺傷事件から1週間後、江蘇省の無錫工科大学で徐加金が起こした無差別殺人事件では、8人が死亡、17人が負傷しました。

www.bloomberg.co.jp

  中国警察によると、同校のOBである徐加金は、「試験に落ち、卒業証書を得られなかった」ことに不満があり、また実習中の給与にも不満があったため、同校に戻り、殺人を犯したとのことです。

 

  昨年末、無錫市中級人民法院は徐加金に殺人罪で死刑判決を下し、死刑執行前に親族と面会した後、20日に死刑が執行されました。

 

  中国では昨年、無差別殺人事件が相次ぎ、9月には上海のスーパーマーケットで37歳の男が客をナイフで襲い、3人が死亡、15人が負傷した。10月には北京の小学校の外で50歳の男が未成年3人を含む5人を刺した事件が発生しました。

 

  相次ぐ「凶悪事件」は、中国社会のメンタルヘルスについてネット上で議論を呼びました。 経済減速が社会的圧力を高めていることが関係しているとの見方もあります。

 

  復旦大学の曲衛国教授は当時の記事で、中国における「社会に対する不当な報復」事件には共通する特徴があると指摘しました。精神衛生上の問題に加えて、容疑者たちは自分が社会的に弱い立場にあると感じ、不当な扱いを受け、他に選択肢がないと感じていたのです。

 

  曲衛国教授は「権力の行使を監視し、暴露するための公的なチャンネルの開設」を呼びかけたが、記事はその後検閲され、削除されました。

 

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  2024年に中国で発生した無差別殺人事件は以下のような事例が確認されています。

 

1.広東省珠海市の車暴走事件(20241111日):

珠海市のスポーツ施設で、62歳の男が車を暴走させ、35人が死亡、43人が負傷。この事件は「社会への報復」とも関連付けられ、離婚調停に関する不満が背景にあると報じられました。

 

2.江蘇省無錫市の学校刺傷事件(20241116日):

無錫工芸職業技術学院で、21歳の元学生がナイフで8人を殺害、17人を負傷させました。犯人は試験で不合格となった不満から犯行に及んだとされています。

 

3.深圳の日本人学校男児刺殺事件(2024918日):

深圳の日本人学校で、10歳の男子児童が刃物で刺され死亡。容疑者は44歳の男で、動機は明らかにされていませんが、中国のナショナリズムや経済停滞が背景にあると指摘されています。

 

4.上海スーパーマーケット刺傷事件(2024930日):

上海の外資系スーパーマーケットで、37歳の男が刃物で人々を襲い、3人が死亡、15人が負傷。経済的なトラブルが原因だと報じられました。

 

5.北京、遼寧省浙江省での車暴走事件(2024319日):

一日で3つの都市で車が人をはねる事件が発生。北京では1人死亡17人負傷、瀋陽では3人死亡1人負傷、台州では3人死亡19人負傷。いずれも20代の男が犯人でした。

 

6.吉林省の公園での米国人講師刺傷事件(2024610日):

吉林市の北山公園で、4人の米国人大学講師が刃物で刺され負傷。容疑者は55歳の男で、単独犯として扱われています。

 

7.広東省広州市の切りつけ事件(202410月):

広州市で少女や小学生がナイフで切りつけられ負傷する事件が発生。無差別性が指摘されています。

 

8.江蘇省蘇州市の日本人母子刺傷事件(20246月):

蘇州で日本人母子が刃物で襲われ、中国人女性も死亡。日本人学校のスクールバスが狙われた事件でもあります。

 

9.浙江省寧波市の切りつけ事件(202410月):

寧波市でも無差別の切りつけ事件が発生し、複数の負傷者が出ました。これもまた、社会的な背景を持つと考えられています。

 

10.湖南省常徳市の自動車突入事件(20241119日):

常徳市の永安小学校前で、39歳の男が自動車で児童を突入させました。幸い負傷者の命に別状はないとされていますが、社会不安の象徴として注目されました。

 

 

 

 

  頻発する無差別殺人事件の背景には社会的不満が深く関連しています。

 

  経済的不均衡: 中国では急速な経済発展が進んだ一方で、貧富の格差が拡大しています。特に若者層の就職難や賃金の低さ、不動産価格の高騰などが社会的ストレスの原因となっています。例えば、江蘇省無錫市で発生した職業専門学校での殺傷事件では、21歳の元学生が試験に不合格となり、卒業証書を得られなかったことや、長時間労働に対する低報酬への不満が動機とされています。

 

  社会的な閉塞感: 中国の監視社会化や言論統制の強化により、人々の自由が制限され、社会的な閉塞感が増しています。また、「天網システム」や「民の点数システム」などの監視メカニズムが社会への恐怖感を助長し、暴発的な行動を引き起こす一因となっています。

 

  メンタルヘルスの問題: 経済状況や社会的抑圧がメンタルヘルスの問題を悪化させており、無差別犯罪の一因とされています。特に、職を失ったり、生活が困窮している人々が、社会への報復として無差別殺人に走るケースが増えています。

 

中国のメンタルヘルス政策

 

  中国政府は、こうした問題に対応するためのメンタルヘルス政策を打ち出してきましたが、まだ十分とは言えません。

 

  メンタルヘルスサービスの不足: 中国にはメンタルヘルスに特化したサービスが不足しており、特に地方ではカウンセリングや心理療法の専門家が少ないです。また、社会全体でのメンタルヘルスに関する理解が低く、求助する人々に対するスティグマ(汚名)がまだ存在します。

 

  政策の推進: 中国政府は「健康中国2030」計画の一環として、メンタルヘルスを重要な柱に据えています。2021年には、全国の精神衛生政策を強化するために「健康中国アクション計画(2019-2030)」が発表され、精神障害の予防、治療、リハビリテーションの強化が掲げられました。しかし、具体的な施策の実行には地域間で大きな差があります。

 

  学校教育とメンタルヘルス: 学校内でのメンタルヘルス教育が推奨されていますが、特に都市部と農村部の間で大きなギャップがあり、教育内容や専門家の配置に地域差が見られます。また、学生のメンタルヘルス問題への対策は十分ではありません。

 

  社会支援システム: 中国では、NGONPOによる活動が制限されており、メンタルヘルスの分野でも自発的な支援ネットワークが発展しにくい状況にあります。これにより、公的な支援システムに頼らざるを得ませんが、対応力やアクセス性に課題があります。

 

  情報統制: メンタルヘルスに関する話題は政府によって厳しく管理されており、特に負の側面や社会的問題につながる情報は検閲されやすい。これが、問題の解決を遅らせ、正確な情報を求める人々のストレスを増大させています。

 

  以上のように、中国の無差別殺人事件の背景には深い社会的不満があり、それに対抗するためのメンタルヘルス政策はまだ道半ばです。政府はメンタルヘルスの重要性を認識しつつも、政策の実行や情報公開の面でさらなる改善が求められています。

 

参考記事

<徳国之声>中国两起随机杀人案凶嫌被处以死刑

https://x.gd/dH6HA