米国が7月に在米の人民解放軍学者を起訴したことを受け、中国政府は在中米国人を拘束する可能性があると米国政府に警告したという報道がありました。中国外交部は、米国は意図的に中国を弾圧しようとしていると述べ、1940~50年代のマッカーシズムを引き合いに出して、新マッカーシズムと非難しました。
ドイツ国営の国際メディア徳国之声がウォール・ストリート・ジャーナルを引用して報じた記事によると、米国司法省が中国人民解放軍の学者を起訴したことに対抗して、中国政府が在中米国人を拘束する可能性があると警告しているとのことです。
中国政府は在中国米大使館など複数のルートを通じて米政府機関に繰り返し警告を発していると記事では指摘しています。
今年の7月に米国司法省は、現役の人民解放軍軍人であることを隠してビザを取得したとして、王新、宋晨、趙凱凱、唐娟の4人を逮捕し起訴しました。
この中で唐娟は、匿われていたサンフランシスコの中国総領事館から追い出されたところを逮捕された美貌の女性学者として、日本でも報じられていました。
4人の起訴後に中国政府は、米国に対して警告を発し始めたようですが、米国国務省の報道官は、中国政府の警告については正式には認めていないものの、以下のコメントを出しています。
「米国市民が、中国政府による刑事・民事事件の捜査に直面した場合、問題が解決するまで中国からの出国を禁止される可能性があることを警告する」
米国国務省は6月に、香港を含む中国への渡航について、最も厳しい「渡航中止勧告」(レベル4)を出していました。
9月になって渡航中止勧告は解除されて、レベル3の「渡航の再検討」に引き下げられましたが、米国人に中国への渡航を控えるよう助言した理由の中には、「中国政府が外交交渉を有利に進めるために外国人の拘束を利用している」としています。
米国司法省の高官も「中国政府は以前、中国国民が他国で起訴されたことへの報復として、アメリカ人やカナダ人など他国の国民を合法的な権限なく拘束したことがある。中国政府はそれが他国への圧力になると思っている。」と述べています。
この件について中国外交部は猛烈に反論しています。
10月19日の中国外交部の趙立堅報道官は、「“倒打一耙,颠倒黑白”(逆に噛みつき、白黒逆転させている)」と反論しました。
「米国側は強いイデオロギー的偏見で、中国を封じ込め、抑圧するという罪深い目的により、米国に留学している中国人留学生を無謀にも監視し、嫌がらせをし、尋問し、逮捕し、理由もなく中国人の電子機器をことあるごとに押収し、罪の推定までして、いわゆる『スパイ活動』やその他の不条理な告発を公然と織り交ぜてきた」
趙立堅報道官は「新マッカーシズム」という言葉を使って、米国の行動を非難しました。 マッカーシズムとは、1940~50年代のアメリカで、共産党員や関係者が、不誠実、裏切り、反逆などの罪に問われ、その過程で不適切な調査や取り調べを受けたことを指します。
最近アメリカ移民局が共産党員からの移民申請を処理しないと発表したことへの反論の意味もあるのかもしれません。
中国でカナダ人やオーストラリア人が逮捕起訴されたときには、日本ではあまり報じられていなかったので印象が薄いかもしれませんが、世界中から「人質外交」として非難されました。
在中米国人が中国政府に拘束されるかもしれないという警告は、米国政府もはっきり認めたわけではありませんが、それらしいことを匂わせてはいます。
日本人には関係がないと思うのは楽観的過ぎます。日本人が拘束された事件も結構あります。日本人にもリスクがあることは念頭に入れておくべきでしょう。
参考資料 *>s
<徳国之声>美批中国“人质外交” 北京反控“新麦卡锡主义”
http*://bit.ly/35pAA6A
<BBC NEWS JAPAN>米司法省、中国人4人を訴追 中国軍との関係隠してビザ取得か
http*://bbc.in/34iZk15