世界最大の単機発電量を誇る中国広東省の台山原子力発電所で、希ガスの濃度上昇が確認されており、燃料棒の問題が疑われています。運営に関わっているフランスのフラマトム社は米国エネルギー省に助けを求めたことが伝えられています。中国当局は、燃料棒の破損により冷却材中の放射性物質の濃度が上昇したが、原発外での放射線検出の許容限度を緩和しており、「危機的なレベル」ではないと主張しています。
欧米各国のメディアが伝えたところによると、フラマトムの親会社であるフランス電力公社(EDF)も、台山原子力発電所で希ガス(キセノンとクリプトン)の濃度上昇を確認しています。
EDFのスポークスマンは、14日の段階では台山原子力発電所の問題の深刻さを軽視し、「中国当局が設定した管理範囲内で」希ガスを大気放出しなければならなかったが、今回の件は、核燃料のメルトダウンに属するものではない」と述べています。
EDFのスポークスマンは、原子炉の主加圧水回路からキセノンとクリプトンが流出したのは、核燃料集合体の鞘が原因だと付け加えました。
報道によれば、8日にフランスのフラマトム社が米国エネルギー省に助けを求めるメールを出し、台山原子力発電所が「差し迫った放射線の脅威」に直面していると報告しました。
しかし米国政府は台山原子力発電所が危機的レベルにあるとは考えておらず、現在の状況が原発で働く労働者や中国の人々に深刻な安全上の脅威を与えているとは考えていない、と関係者の1人が語っています。
また、台山原子力発電所の共同所有者である中国広東核電集団(CGNPC)は、14日に希ガスリークの主張を否定し、台山原子力発電所およびその周辺の環境指標は正常であるとしています。
フラマトム社は、中国当局が原発を停止させないために、原発外での放射線検出の許容限度を引き上げたとしています。
中国では広東省を含む華南を中心に電力需給が逼迫しており、「開三停四(三日操業四日停止)」状態で、工場の操業に悪影響を及ぼしているため、原発を停止させるわけにはいかない事情があります。
中国生態環境省は16日になってようやく、同原発の燃料棒の破損により冷却材中の放射性物質の濃度が上昇したと発表しました。
情報公開を求める国際世論に押される形で、問題が起きていたことを初めて認めました。それでも技術や安全面の基準は満たしていると強調しています。
台山原子力発電所は、広東省西部の台山市にあり、マカオから約70km、香港から約130kmしか離れていないため、「差し迫った放射線の脅威」のニュースは、香港とマカオの人々に心配を引き起こしました。
香港特別行政区政府は15日に、この問題を非常に重要視しているが、香港のデータは正常で標準的なものであると述べました。
マカオ地球物理気象局も15日に、午前4時現在、マカオのガンマ測定値は正常であると発表しました。
しかし香港やマカオの公式発表も、国民の疑念を完全には払拭できず、多くのネットユーザーが「中国当局が許容基準を引き上げれば『基準内』になるのは当然だ!」というメッセージを残しています。
台湾国立清華大学原子科学院の李敏院長は、「原子力発電所から不活性ガスが漏れているということは、燃料棒の鞘に欠陥がある可能性があります。 漏れたガスが一定の基準値を超えると、システムの動作が停止します。」と述べています。
李敏院長は、中国国民の不安の声に対し、「しかし、同様の状況はどのような原子力発電所でも起こりうるものであり、それに対処するための標準的な手順があるので、直ちに危険が生じるわけではない。落ち着いてパニックに陥らないように。」と呼び掛けました。
香港プロフェッショナル・コモンズの黎広德技師も、現在の状況はまだ「危機」からはほど遠いと語っています。「放出された希ガスはまだ閉鎖された「第1サイクルシステム」に限定されており、理論的には大気中に漏れることはない。」
黎広德技師は、「しかし適切に処理されなければ、蓄積されたガスがより大きな技術的問題につながる可能性がある」と警告もしています。
黎広德技師は、 国の原子力安全規制機関ではなく、中国広東核電集団(CGNPC)だけが対応していることに懸念を感じています。
事業者である中国広東核電集団(CGNPC)は、燃料棒の交換は商業的に大きな損失となるため、問題への対処を遅らせ、公共の安全に対するリスクを高め、政府機関の規制問題を露呈させる可能性があります。
台山原子力発電所は、フランスの技術で建設されたものですが、フランスの安全基準に従わず、独自の安全基準を設定したり、安全基準を勝手に下げて運用したりしています。
つまり、フランスが提供した技術に中国側が独自の低い安全基準を課すという矛盾が生じており、 このままでは、次の事件の発生がいつ起きてもおかしくありません。
これが、フランスが米国に事件を開示して、支援を求めざるを得なくなった理由だと、黎広德技師は指摘しています。
実はフランスが米国に事件を開示した理由がもう一つあります。
欠陥のある燃料棒を見つけるためには、米国の技術を使用しなくてはならなくなる可能性があると、フランス・フラマトム社は考えています。
ところが2019年8月に米国商務省は、中国広東核電集団(CGNPC)と関連会社の4社を、中国の軍事利用のために米国の高度な原子力技術を取得する意図があったとみなす「エンティティリスト」に掲載しました。
これは、特定の許可を得ない限り、米国の原子力産業のあらゆる技術を中国広東核電集団(CGNPC)に移転することができないことを意味します。
米国は、原子力関連の輸出を「技術輸出」「機器・部品輸出」「材料輸出」の3つに分類しており、中国広東核電集団(CGNPC)は3つの分類すべてにおいて推定不承認輸出対象とされています。
このような状況の中で、台山原子力発電所の持分30%の共同経営者であるフラマトム社と、その親会社のフランス電力会社(EDF)が米国に技術共有を申し込む必要が出てきました。
しかし、米国の態度も明確で、バイデン政権は台山の状況をエネルギー省やフランス政府の専門家と協議しており、施設が 「危機的レベル 」にあるとは考えていないと言います。
この様な状況の中、16日に中国メディアの澎湃新聞には、台山原子力発電所は安全かつ安定的に稼働しており、周辺環境のモニタリングデータは正常な範囲内にあるとする記事が掲載されました。
記事によりますと、6月14日の台山原子力発電所周辺のモニタリングポイントの空気吸収線量率(nGy/h)は154nGy/hで、2020年第3季(7~9月)の「全国の空間吸収線量率に関する四半期報告」で開示されたデータと比較しても、基本的には同じであるとしています。
6月15日の香港の12箇所のモニタリングポイントの空間ガンマ線量率は下図の通りで、0.08~0.14μSv/hとなっています。単位が異なり分かりにくいのでので、空気吸収線量率(nGy/h)に換算すると、80~140nGy/hとなります。
香港の過去のデータは0.06~0.3μSv/h(60~300nGy/h)で推移しており、通常レベルであると結論付けています。
しかしネット民の中には、「中国のデータは信用できない」「また隠蔽して、手がつけられなくなったら公表するつもりだろう」と危惧する声もあります。
「中国の手先となった香港政府のデータが、本当に信頼できるのか」と疑う声も見られました。
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参考記事
<自由亜州電台>台山核电站危机惹忧虑 专家吁港澳居民无须恐慌
http*://bit.ly/3zyxJXw
<徳国之声>法国电力:台山核电曾主动排气,没有核泄漏
http*://bit.ly/3iHgnBt
http*://bit.ly/35wsWaV
<澎湃新聞>台山核电站安全稳定运行,周边环境监测数据在正常范围内
http*://bit.ly/3q5y0wI
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